Y先生のこと

半世紀近く生きてくると、これまでの来し方を振り返る事も自然と多くなる。 そして稀にだが、幼かった頃や若かった頃の自分と今の自分を重ねて眺めてみると、あの時のあれはこういう事だったんだな、と「人生の答え合わせ」みたいな考えに至る時がある。 高…

「好き」という業を背負った者たち

横浜BLITZでもらった小冊子 ※最近起きたあるアーティストの事件から感じた事と自分の経験談を書いています。下記の内容に関してはいかなる違法行為も容認、助長する意図はない事を、念のため先に述べておきたいと思います。 僕は、30年来岡村靖幸さんのファ…

卒業

3/16は小学校の卒業式だった。 その日は有休を取り、朝から早起きしてスーツを着込み、まだ春の到来には程遠い寒空と雨の中、学校に出かけた。自分の小学校の卒業式のことは何しろもう30年以上前のことなのでまったく覚えていない。家内は自分が卒業した母校…

やさしさ

日々のあれこれにかまけてずっと書けずにいたが、8月に実家に帰省した。いつものように親戚に挨拶に行き、友達と会い、父と末の妹の墓参りをし、上の妹や母と話した。実家を出て、10年ぐらいたった頃からぼんやりと考えていたことがあった。「僕はあと何日母…

命日に

子供時代の兄妹の写真を観ていたら、ふと思い出したことがあった。あの子は今、どうしてるだろうなと考えた。 - その場にいた喪服の人たちの中で、地味だが色つきのワンピースを着ているその子の姿は目を惹いた。年の頃は3〜4歳だろうか。おそらく妹の友達の…

大丈夫だよ

これは昔、幼稚園を不安がる子どものために家内が髪留めゴムに描いたお守りだ。 「だいじょうぶ」と書いてある。「だいじょうぶ、こわくないよ」なのか。 「だいじょうぶ、あなたなら」なのか。 「だいじょうぶ。いざとなったら母が出るから」もあるかもしれ…

最期の笑顔

突然の訃報で、急遽葬儀に参列した。 あまり縁の深い間柄の方ではなかったが、生前の話はよく聞いていた。一言で言えば、「生き尽くした」人生だったと思う。 最期も、そんな風に思える笑顔だった。どうか安らかに。 そしてどうか、あちらでも旅を続けてくだ…

流星

ひどかった週末も終わって、ベランダでタバコを吸っていた。 煙を追って見上げた先に夜空が見えた。毎晩夜更かししてた高校生の時、母が夜中に「流星が見えるんだって」と僕を連れ出して、二人でベランダで流星群を見た。あれから二十年以上経ち、あの家はも…

喪失の存在

今日、妹のお墓ができたと母から連絡があった。いよいよ家から彼女が出て行く日がきた。 嫁いで出てゆき、亡くなってまた出て行く。二度出て行く妹を、母たちはどんな思いで見送るのだろうと考えた。僕はもう妹の死を乗り越えた、自分は立ち直ったと思ってい…

東京で

仕事で東京に来ている。四年以上ぶりだ。今日は、せっかく東京来たので青山にあるMOTOに行った。店を出て次までかなり時間が空いたのでさあどうしようと思ったが、時間もあるし表参道から原宿駅まで歩いた。今日も人が多い。20代の頃は古着屋を目当てにこの…

変化

日付が変わり、11月13日になった。今日は妹の三度目の命日だ。また一年が過ぎた。今年も例年同様、好きだった泡盛を一緒に飲んでいる。妹が泡盛が好きだったというのは、後から知ったことの一つだ。味わった悲しみの大きさほどには、僕は妹のことを何も知ら…

夏の思い出(完結編)

(前編より続く) おそらくノブテルはうれしかったんだろう。 当時僕は新聞は占いとテレビ欄しか見なかったのでノブテルが新聞に載ったことを知らなかったが、その日の夜に母からそれを教えられた。 「知らなかった?」と母に言われ、「うん。今日キヨテルと…

夏の思い出(前編)

先週の日曜の正午。 昨夜も遅くまで起きていたので、さっきまで寝ていた。子供に日曜はスケボーに連れて行ってほしいと言われていたが僕がいつまでたっても起きないので、業を煮やした子供に枕で顔をふさがれ、あやうく窒息するところで目が覚めた。 冷や汗…

追悼

猫とは、我々人間が機能不全な関係を結ぶ、最後で最上の存在である。(ジョン・ブッシュ)*1 実家では猫を飼っていた。父がこの場所に家を建ててからもう17、8年前になるが、猫は家の完成と共にこの家に住み着いた。家族と猫との出会いはこんないきさつだっ…

いつもの道を通って家に帰り着くと、アパートの前の駐車場に猫の親子がいた。*1 ぶちの母猫、中くらいの白猫、黒い子猫の三匹だ。 黒猫はたぶんまだ産まれて間も無い。先月くらいからこの辺りで見るようになった。野良猫嫌いの妻は「また猫が増えてたよ」と…

もらいもの

今日、こんなツイートを見た。学校に着いた時、おそらく1年生であろう綺麗な制服を着た女生徒が10人ほどで降ってくる桜を素手でつかめるかという遊びに興じていた。あまりに瑞々しくて美しい光景だったので嘘かと思った。— 麻里子三谷 (@malicoa) 2015, 4月 …

親の身勝手

子供が学校でからかわれた話をしていた。笑って話していたので、嫌な体験ではなかったのかどうかよく分からなかったのだが、最後に「ほんとは嫌だった」と言っていた。 話を聞き終わって子供を横に座らせて、お父さんもそうだったから分かるけど、嫌なこと嫌…

わるいひと

PCに向かっていたら、付けっ放しにしているテレビから、「後藤健二氏の映像が動画配信サイトにアップされた」というニュースが流れた。速報のためかどうも要領を得ないが、湯川遥菜氏の画像を持った映像が投稿されたらしい。これは大変なことになったな…とテ…

才能

これはもう一種の才能のようなものかもしれないが、何かを選ぶ時、たいてい「そっちじゃない方」を選んでしまう。例えば、仕事が終わって帰宅する。家の前で鍵を取り出そうとして、鍵はコートの左右どちらかのポケットに入れていたことを思い出す。右だろう…

四つ葉のクローバー

子供と公園に行ってきた。 家で仕事をしないといけなかったが、普段あまり遊んでやれていないし、少し遠出をして前から行きたいと言っていた大きな遊具のある公園に行った。 Webサイトで写真を見ただけだったが、公園は期待通りの場所だった。大きな敷地に大…

余所行きの言葉

僕は、父と母から「愛している」と言われたことは一度もない。かと言ってそれが特異なこととは思わない。もちろん父母に愛されていなかったとも思わない。 今の世代の親たち(僕もその一人ではあるが)は知らないが、僕らや、その上の世代の平均的な日本人に…

帰り還り返りて、また帰る

8月14〜17日と、実家に帰省してきた。昨年に続き、今回も子供と二人旅だ。しかも昨年より一日長い逗留である。いつもは大体3日だが、移動で半日は費やすことを考えると、3日間では少し慌ただしい。が、4日間あれば、2日は自由になる。この差は大きい。僕は、…

心残り

子供の頃から父とは、あまり話をしなかった。嫌いだったからではない。忙しくて、 家にいつかない人だったからだ。 父と話をすることのないまま、僕は進学のため家を出て、そのまま社会に出て働き始めた。父とはたまに帰省の折に話すことはあったが、近況報…

朝生観てて

朝生が、日中関係に関する討論だった。パネラーの一人が中国側の論者だったのだが、その人は主張はともかく逆の意味で好感が持てた。99%相手に理があり*1、そしてそれを自分以外(ともすれば自分も)の全員が認めていても、1%に満たない自分の理を100倍に膨…

職業倫理

「フォーラムの無料招待状をお送りしたい」という謳い文句で電話をかけてきて、社員の名前を聞き出そうとする電話がかかってくる。これで名前が流れると、数週間後に「○○さんを是非スカウトしたいという社長さんの代理でお電話しました!」という電話がかか…

理由

少年期に、「自分はどうして自分に生まれてきたんだろう」という疑問を持った。 大人になったら答えが見つかるだろうと思っていたのだが、答えは出なかった。 そして親になった。疑問に答えが出ないまま同じ疑問を子供に与えることになったわけだ。 たが、一…

言葉の力(ちから)

僕は(そしておそらく大抵の人間は)言語を脳内に記憶する際に、辞書のようには記憶していないだろう。「複雑」という単語を思い起こしてみる。 “[名・形動]物事の事情や関係がこみいっていること。入り組んでいて、簡単に理解・説明できないこと。一面的…

長いお別れ

さっきまで、人がたくさん死ぬドラマを観ていた。 そのドラマ自体はとても好きで楽しみに観ていたのだが、ドラマの中の死がストーリーを進めるための小道具の一つにしか過ぎないように思えてきて、ちょっと醒めてしまい途中で観るのをやめてしまった。 煙草…

親という役割 〜母の日に〜

昨日、歯医者に行ってきた。最後に行ったのは確か8年前である。 虫歯は無かったが相当に歯石が付着していたのと、永年の喫煙もあって歯茎が弱っているらしかった。とりあえず目に見える歯石の大部分は取ってもらったが、しばらく通院が続きそうだ。初めての…

子供は生きる。全力で。

大人は子供に「子供らしさ」を求める。 親になってみて、自分にもその傾向があることが分かった。 だが、自分の子供時代を思い出してみるとどうだっただろうか。親や周りの大人に子供らしさを求められるのは嫌いではなかったか(特に物心ついてからは)。 何…