クリスマスイブの空を見て思う

僕は冬が嫌いだ。寒いのが嫌いだ。厚着が嫌いだ。静電気が嫌いだ。夕暮れが短いのが嫌いだ。

しかし。最近になって、冬の空は表情が豊かだということに気がついてから、冬空を見るのが好きになっていた。



例えば、出勤時、朝焼けの空にうろこ雲が流れていくのを見るのが好きだ。

屋内から戸外に出た時の、目に刺さるほどの空の青も好きだ。

タバコを吸いながら高い空をじっと見ているとしだいに遠近感がなくなってきて、まるで掴めるかのような距離に思えてくる。さらにそのまま見続けていると時間の感覚、上下の感覚もあやふやになってくる。 最後には、自分は今どこにいるのかもわからなくなってくる。

また、公園のベンチなんかに座って空一面に雲がゆっくり流れていくのを見ていると、僕の方がゆるやかに動いているような錯覚におそわれる。 空が自分であり、自分が空であり。空を見ている時の、そんな浮遊感も好きだ。

夕焼けを見ながら、陽が落ちていく方角にある故郷のことを考えるのも好きだ。




昔読んだある小説に

「おれたちは、空が青い理由を知ってしまったから、青空を見て感動することができなくなった」

という一節があった。

人間は空の青い理由を知っている、夕焼けがなぜ赤いかも知っている。
高い空をじっと見ていて自分が空と一体化したかのような感覚におちいる原因も認知心理学的に説明ができる。





だが、それではやっぱりつまらない。
理性で割り切れないのが人間であり、だから人間は空を見るのだ。
それに僕は冬が嫌いだ。寒いのが嫌いだ。厚着が嫌いだ。静電気が嫌いだ。夕暮れが短いのが嫌いだ。



だからせめて空を見るのだ。理性で割り切れないことが多すぎるから。