若者よ、世界を出し抜け

家族でプールに行った時の話だ。

更衣室で着替えを済ませると、ロッカーに荷物を入れた。
ロッカーは100円式で、お金が戻ってこないタイプのやつだった。こういう場合「何を持っていくか」を慎重に考える必要がある。
その日の持ち物は次の通りだった。

・タオル
・着替え
・文庫本(暇つぶし用)
・携帯
・財布
・タバコ、ライター

現在の時間は11時。滞在時間はおそらく3〜4時間だろう。
着替えとタオルは必要ない。
文庫本も、まあ不要だろう。
タバコ→要る。
もうすぐお昼になるので、財布も要る。
携帯→なんとなく持っていないと不安だ。

結局、ポーチにタバコと財布と携帯を入れて肩に掛け、ロッカーに不要なものを入れて閉めた。
更衣室を出て家族と会うと家内は開口一番「それじゃ泳げないでしょ」と言った。
“大丈夫、ポーチは頭の上に乗せて古式泳法で泳ぐから”と言ってもクスリとも笑わなかった。
家内が「トイレの横に貴重品用のロッカーがあったから、そこに入れてきたら?お金戻ってくるから、何度でも開け閉めできるよ」と言うので、それは知らなかったと行ってみた。
あったあった。貴重品用の小さめのロッカー(10×10ぐらい)だ。さっきは全然気が付かなかった。しかし、残念ながらもう一つも空いてなかった。

どうしようかとロッカーの前で考えていると、中学生ぐらいの男の子二人がロッカーの前に来た。
二人はそれぞれベルトで手首に巻いた鍵でロッカーを開けた。
彼らのロッカーには、カンフーシューズのようにつぶしたスニーカーや、ロッカーの容積ぎりぎりまで畳んだカバンが入っていた。
何のことはない、彼らは貴重品用のロッカーを更衣室のロッカーの代わりに使っていたのだ。
必要なものを取り出すと、彼らは戻ってきた100円でまたロッカーを閉め、プールに駆けていった。

正直、ぐぬぬと思った。
しかし同時に、「頭いいな」とちょっと感心した。
何らかの「注意」をすべきかとも思った。
しかし、自分が彼らぐらいの歳の頃、こういったすれすれの行為をしたことが無かったか?と問い直してみた。
で、まあいいやという結論に達した。

若者は、世界を出し抜くべきだ。
でも、若者よ、間違ってはいけない。
欺くのではなく、出し抜くのだ。

そんなことを考え、僕はまたさっき閉めたロッカーを開けた。
そして貴重品を入れ、また100円を入れてロッカーを閉めた。