涙と想像力

僕は小さい頃、いつも泣いて(なかされて)いた。図体が大きいのにすぐ泣いてしまうのがコンプレックスだった。
元々涙のハードルが低いのだが、年を取るにつれてさらにそれがひどくなった。

別して子供はいけません。

自分の子供はもちろん、よその子供でも泣いている姿を見るのは嫌だ。
もっと言うと、「泣いている子供の絵」を見ただけで悲しくなってくる。

前住んでいた土地で、地元の商店街が作ったものだろうが、危険を感じた子供がこのお店に避難してもいいと呼びかけるポスターを見た。「こわくなったらはいっていいよ」というコピーと、優しそうなおじさんとおばさんが何かに追われて怖くて泣いている子供を迎え入れているイラストが描かれていて、「なんてかわいそうなんだ…」と悲しくなった。
(想像力の使い方が間違っているのかもしれない)

これを突き詰めたのが山下真司だ。
山下真司は「短いズボン」で泣いていた。

昔観たバラエティ系の深夜番組で「泣きと言えばこの人」ということで山下真司がゲストで呼ばれていた。
山下真司は果たして何ででも泣くことができるかという企画で、出されたお題は「短いズボン」だった。

最初「どういうことだ?」と意味が分からなかったのだが、山下真司はそのズボンを履いた。
そして、七分ぐらいのちんちくりんのズボンを履いた山下真司

「…短い……なんて短いんだ………可哀想に……」

と見事に涙を流して泣いていた。
これがプロか…と感動して僕も泣いた。


今日は子供の日ということもあり、子供と映画を観にいった。
アナと雪の女王」が大人気なので家内がそれにしたらと言ったのだが、僕は「クレヨンしんちゃん」の映画を一度観てみたかった(大人が観ても楽しめる、感動できるという評判を聞いていた)ので、それにしないかと子供に持ちかけた。子供もそっちの方がいいと賛同を得て、めでたく僕の希望が通った。

映画の前にお昼を食べ、開演時間ぎりぎりに映画館に入った。子供がトイレと言うので、僕は何で今頃…と思いつつハンカチを渡して子供をトイレに向かわせた。女性用トイレは混んでいたが、なんとか間に合った(実際は上演時間から数分はCMなのだが)。

映画は、評判どおりの内容だった。
ここで詳細は述べないが、実にさまざまなテーマが込められていた。観ながら、「(子供は)このシーンについてはどう思うだろう」「このセリフの意味は後で説明しよう」などと考えた。

僕も二度ほど涙が出た。一度は中盤のワンシーンだ。
子供をそっと見た。真剣に観てはいたが、感情は窺えなかった。子供がその調子なので涙を拭くわけにもいかず、そのままにしていた。
もう一度はラストシーンだった。中盤のシーンよりもより多くの涙が出ているのが分かった。今度は子供を見る余裕もなかった。

と、その時、視界に何かが差し出された。

そちらに目をやると、子供が僕を見ていた。
不思議そうな顔で、先ほどトイレに行くときに渡したハンカチを、僕に差し出していた。
僕は、「ありがとう」と言ってハンカチを受け取り、涙を拭いた。

相変わらず、図体が大きいのにすぐ泣いてしまう。
未だにそれがコンプレックスだ。