先生にお会いしたこと

先日、大学時代の恩師に会いに行った。
お会いするのは大学卒業以来で実に15年ぶりであった。せっかくUターンしたので一度ご挨拶に伺いたいと思っていたのだが、ようやく実現した。
先生とは卒業してからも毎年年賀状のやりとりをさせてもらっている。僕は大学卒業以来5回転居(長距離も含む)しているのだが、生来のものぐさのため転居先をこまめに周知してこなかった。だからその度にどんどん僕の行方を知る人は減っていった。そんな中で先生は数少ない僕の所在を知っている人だった。つまり僕の方からも「近況をお伝えしたい」方だったということだ。
「音信の途絶えていた恩師にも会えた。なんと素晴らしいソーシャルメディアのチカラ」…と言いたいところだが、実際は便りを欠かさないという昔ながらのやり方だ。
一昨年母校を定年で退官され、現在は別の大学に請われて教鞭を取られている。

先生のゼミは、ゼミ生が1ヶ月ぐらいの期間で任意のテーマ(大体は研究書などの書籍)を読み込みんで、テーマについて皆の前でプレゼンをする。プレゼン後にテーマについて皆で討論をする(最後に先生が総括をする)。これをゼミ生の持ち回りで行う。ゼミは午後から始まるが、プレゼンにも討論にも時間制限はなく、場合によっては夜になることもある。読み込みやプレゼンが足りない場合はダメ出しが入ることもある(その場合は翌週に再度プレゼンをする)。経営組織論のゼミだったが、選ぶテーマは色々で(先生からテーマが薦められることもある)、カオス理論をテーマにした人もいた(ちなみに僕は当時流行っていた「リエンジニアリング革命」をテーマにした)。ゼミの後はたいてい先生の研究室に移動して酒盛りだった。そこでも議論の続きをしたりした。

15年ぶりにお会いした第一印象(ちょっと変な言葉か)は、やはり先生は「益々盛ん」であるなということだった。
最近は母校のビジネススクールMBAの立ち上げに尽力されたと聞いていたが、お話を聞くとやはり地域経済を活性化させるために地場の企業を盛り上げようとなさっているようだった。「中小企業、その中でも同族企業が面白い」とおっしゃっていて、これは昔ゼミの後の酒盛りの時に一度聞いたことがある「民主主義と貴族(帝王学を学んだ)による統治の比較」の話からぶれていなかったことが興味深かった。ビジネススクールに通う方の中にも地元の企業の2代目という方が多いそうだ。

先生は長年ドラッカーを研究なさっていた。ゼミでは「未来企業」などのプレゼンを聞いたこともある。*1
僕は、先生にお会いしたら何を話そうかとずっと考えていたのであるが、それとは別に一つだけどうしても聞いてみたいことがあった。
それは、

昨今のドラッカーブームが先生の目にはどう映ったか

ということだ。
できれば「もしドラ」をどう思ったかについても聞きたかった。
つまり「もしもドラッカーの研究者が『もしドラ』を読んだら」についてである(ダジャレです。はい)。

この質問(昨今のドラッカーブームについてどう思いますか)をぶつけてみたところ、研究者として嬉しい反面、やはりドラッカーの名を冠しただけの(内容がドラッカーの思想に即していない)「ハウツー本」が巷に溢れていることについては首を傾げているそうだ。しかし「ただ、その中でも『もしドラ』は悪くないと思った」というのが先生のご感想だった。
ドラッカーブームの昨今、昔からドラッカー研究をなさっている先生のところにも講演の依頼が増えたそうである。講演後に「もしドラ」のことを多分聞かれるだろうと想定し、お読みになったそうだ(ご家族は驚いたそうだ)。先生曰く「著者は学者ではないし、内容にもちょっと外れたところはあるが、素直な本だ」ということだそうである。

先生のお話の中で「経営学をやっていてよかった」という言葉が印象的だった。経営学には色々な学問を横断的に学ぶ必要がある。上に出たカオス理論もそうだが、社会学、心理学、文化、もちろん経済学もしかり。そうして学んできたことが今すべて活きているそうだ。自分のやってきたことを肯定できる人生とはやはり素晴らしいものであるということを今回先生にお会いして改めて感じた。

おまけ

大学の駐車場で見た風景

*1:僕はドラッカーのいう「知識労働者」についてイメージができなかった。昔、小松左京が「マルクスはSFだ」とマルキシストに言って殴られそうになったというエピソードを読んだことがあるが、その時の僕には「未来企業」も十分SF(「華氏451度」的な)だった。